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SORIN Newsletter Vol.4

September 2011

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又吉 徹
慶應義塾大学病院
医用工学センター

人工肺の圧力損失とシェアストレス

 

人工肺の選択基準とは?

人工肺の選択基準には、高いガス交換能・熱交換能、低容量、容易なプライミング、低圧力損失、コーティング方法などがあります。カタログを見ると、どの人工肺もガス交換能、熱交換能などは同等の性能を有していますが、圧力損失の高い人工肺と低い人工肺が存在しています。  一般的には圧力損失の低い人工肺の方が溶血など血液に対する侵襲は少ないと言われています。一方、低侵襲な人工心肺を目指すには、血液と異物との接触を減らす必要があります。人工心肺回路の中で一番血液との接触面積が大きいのが人工肺です。ただし、人工肺の面積を小さくすると圧力損失が高くなります。今回、圧力損失の低い人工肺がよいのか、面積が小さい人工肺がよいのか、検討しましたので報告いたします。

人工肺の圧力損失について

Fisherらは2003年 Perfusion誌に「Normal and abnormal trans-oxygenator pressure gradients during cardiopulmonary bypass」を報告しました。異なる8病院において開心術中の人工肺圧力損失を3,684症例で観察し、その中で各人工肺の正常時の圧力損失と、異常時の圧力損失上昇の特性、その発生要因などの検討を行いました。体外循環中に、血流1Lあたりの標準的な圧力損失(mmHg)を測定した際、各人工肺に特徴的な一定の圧波形が得られました。人工肺の圧力損失に影響する要因として血液流速と人工肺の寸法があります。圧力損失が10mmHg/L程度の人工肺から、30mmHg/Lを越える人工肺がありましたが、異常な圧力損失上昇との関連はありませんでした。異常な圧力損失上昇が発生したのは、16症例(230症例に1例)で、うち3症例(1,228症例に1例)において人工肺の緊急交換が必要になるまでの圧損上昇が発生しました。  報告された16症例では、3パターンの圧力損失上昇が発生したことから、それぞれ異なる原因がある可能性が示唆されました。図1は圧力変化のパターンを示します。9症例では、体外循環開始直後の圧力損失は正常でしたが、急速に圧力損失上昇が発生した後、40分以内に正常値に戻りました(Type Ⅰ)。 3症例では、体外循環開始直後に圧力損失上昇が発生した後に急速に正常圧に戻りました(Type Ⅱ)。 もう一症例では、体外循環開始直後より圧損上昇が発生し、操作中は高い圧損のままでした(Type Ⅲ)。人工肺交換を行った3例は全てType Ⅰで、白色血栓が確認されたことから、血小板が関係している可能性が示唆されました。

図1:人工肺の圧力損失変化

圧力と溶血

人工肺の手前の圧を計測するようになり、回路内圧が300mmHgを超えることをよく経験しますが、それで溶血することは観察されません。そこで圧力と溶血に関して調べてみました。Chambersらは1996年のASAIO journal誌に「Effects of static pressure on red blood cells on removal of the air interface」を報告しました。血液だけのサンプルと血液に気泡を混ぜたサンプルに陽圧側に1,000mmHgまで、陰圧側に-710mmHgまでの圧力を加え血漿遊離ヘモグロビン(PFHb)を測定しました。結果は図2のグラフに示します。血液だけのサンプルでは陽圧側、陰圧側どちらでもPFHbの値は低値でしたが、血液に気泡を混ぜたサンプルでは、陽圧側のPFHbの値は低値でしたが、陰圧側のPFHbの値は高値を示しました。この結果により、血液は高い圧力損失の人工肺を使用しても溶血しないことが解りました。

図2:圧力と溶血の関係

Figure 2. Relationship between change in plasma free hemoglobin (ΔPFHb) and pressure (open squares, blood-air interface [B-AI]; solid squares, blood-mineral oil interface [B-MOI]*). Fresh human blood was used, with the pressure being applied for 5 min. The error bars are standard error of the mean, with N=15. The arrow denotes the pressure at which bubbling began for B-AI. *p=0.56 (ANOVA), no significant difference across pressures; †p=0.75 (unpaired t-test), not significantly different compared to B-MOI; ‡p<0.05(post-hoc, Dunnett’s t-test), significantly different compared to reference at 1,000 mmHg, the lowest ΔPFHb value.

圧力とシェアストレス

人工肺の中で血液にはどのような力が加わっているのでしょう。それは血圧に基づく法線応力(細胞を円周方向に引っ張る力)と貫壁性応力(細胞を押しつぶす力)などの血行力学的応力と、血流に起因するシェアストレスです。シェアストレス(shear stress)とは、ずり応力や剪断応力のことで、従来は物理学、特に流体力学や水力学で用いられて来た言葉です。血液の流れにより生じるシェアストレスが血球(赤血球、白血球、血小板)や血管壁に作用していることから注目されてきました。  このシェアストレスは、細胞を血流方向に歪ませます。血管内では、このシェアストレスが主に血管壁(血管内皮)に作用しますが、人工肺内では、膜ではなく、血球に作用します。

表1:シェアストレスが誘発する血球の活性化

表1はシェアストレスが誘発する血球の活性化を示します。高いシェアストレスを受けると白血球、血小板は活性化し、赤血球では溶血が発生します。では、シェアストレスは血球にどのように作用するのでしょう。図3は人工肺の膜に対する血液の流れと圧力損失を示します。膜に対して垂直方向に血液が流れるZ flowは圧力損失が低く、膜に対して平行に血液が流れるY flowは圧力損失が高くなっています。よって、短い血液流路の人工肺は低圧力損失、長い血液流路の人工肺は高圧力損失となります(図4)。ただし、同じガス交換能を有するには、短い血液流路の人工肺(低圧力損失)では大きな面積が必要となります。

図3:血液の流れと圧力損失の関係

図4:Y Flowの人工肺内部での血液流路

圧力とシェアストレスは一定の面積にかかる力の大きさになりますので、図5の式1となります。式1より、シェアストレスは式2となります。この式2より、シェアストレスを低くするためには、低い圧力損失か長い血液流路が必要となります。低い圧力損失の人工肺は短い血液流路になります。高い圧力損失の人工肺は長い血液流路になります。例えば低い圧力損失の人工肺(ΔP=60mmHg、L=2.2cm)の人工肺でのシェアストレスは式2により105dynes/cm2となり、高い圧力損失の人工肺(ΔP=148mmHg、L=9.2cm)の人工肺でのシェアストレス68 dynes/cm2となります。

図5:圧力とシェアストレスの関係

表2:各人工肺の圧力損失とシェアストレス

表2では、各人工肺の血流量6L/min時のシェアストレスを求めてみました。D903、A、Bの人工肺でプライミングボリューム、ガス交換能に差はありませんでした。A、Bは膜面積が大きいため、100mmHg以下の低い圧力損失でした。D903は膜面積が小さいため高い圧力損失です。しかし、シェアストレスはD903で65dynes/cm2、Aで114dynes/cm2となり、Bでは222dynes/cm2と高値になりました。D903とBを比べると、圧力損失はD903がBの約2倍高いのに対し、血液流路の長さはD903がBの4倍以上長いため、シェアストレスは、D903が低い値になりました。血小板の活性化を抑制するためには、シェアストレスの低い人工肺を用いた方が有利です。

低侵襲な人工心肺を目指して

人工肺の圧力異常などのトラブルには、血小板が関係していることが示唆されました。また、圧力損失だけでは、人工肺の指標にならないことが解りました。圧力損失はひとつの指標で、シェアストレスの尺度になります。血液(特に血小板)への侵襲を低減し、血液に優しい低侵襲な人工心肺を行うためには、シェアストレスの低い人工肺を選択する必要があります。

参考文献
  • 図1) Fisher AR. Normal and abnormal trans-oxygenator pressure gradients during cardiopulmonary bypass. Perfusion. 2003;18(1):25-30.
  • 図2) Chambers SD. Effects of static pressure on red blood cells on removal of the air interface. ASAIO J. 1996;42(6):947-50.
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